はじめに
民事裁判手続のデジタル化(mints 導入)により、日本の裁判実務は大きな転換点を迎えています。
その中でも、当事者にとって最も身近な変化が 申立費用の扱い です。
従来は、
- 郵券(ゆうけん)=郵送送達のための切手
- 収入印紙(申立手数料)
の2種類を準備・管理する必要がありました。
しかしデジタル化により、これらの扱い方が大きく変化します。
この記事では、郵券・印紙・手数料算出方法 の3点を中心に、現行制度とデジタル化後の違いを体系的にまとめます。
郵券とは何か(現行制度のおさらい)
郵券とは、裁判所が相手方に書類を特別送達する際の 郵便料金(切手) を、申立人があらかじめ提出する制度です。
現行制度で郵券が必要となる理由
- 特別送達は「受領印のある手渡し配達」
- 郵便局を通じて発送される
- 裁判所には送達費用の予算がないため 立替前払い方式
郵券の金額の算出方法
郵券は次の式で求めます:
送達先の人数 × 1通あたりの特別送達料金
1通分は通常 800〜1000円程度。
相手が2名なら単純に倍になります。
印紙(申立手数料)とは
民事事件では、訴額(請求額)に応じて 申立手数料 が必要です。
現行制度では、これを 収入印紙を紙に貼って納付 します。
- 訴額に応じて段階的に金額が規定
- 不足すると補正必要
- 紙での貼付ゆえの手作業が多い
申立手数料の算出方式は今後も変わらない
ここが重要ポイント。
✔ デジタル化後も、手数料の算出方式は「訴額に応じて決まる」まま
理由は:
- 手数料の金額は「民事訴訟費用等に関する法律」が規定
- 改正民訴法は 手続のデジタル化 が目的であり、費用体系の改定は対象外
- 手数料は国庫収入に直結するため、別次元の政策領域
つまり、
金額の決定ルールは現行維持。
変わるのは“納付の方法”だけ。
デジタル化後:郵券は原則不要になる
改正民訴法では、送達の中心が 電子送達 に転換します。
電子送達とは
- mints 上で書類を閲覧した時点で送達完了
- 閲覧しなくても一定期間で「みなし送達」
- 郵便による特別送達を使う必要がない
そのため、
▶ 郵券(切手)は原則不要になる
という大きな変化が起こります。
例外的に郵送が必要な場合
相手が電子送達を利用できない場合など、紙の送達が必要なときは郵便送達が行われます。
ただしこの場合でも:
- 必要額は裁判所が算出
- 申立側は郵券を準備しない
- mints の通知を受け、電子納付するだけ
現行の「郵券計算 → 切手提出 → 管理」という作業は完全に廃止されます。
デジタル化後:申立手数料は電子納付に一本化される
紙の収入印紙を貼る方式は廃止され、すべて 電子納付 に統一されます。
電子納付の特徴
- mints が自動で手数料(印紙額)を算出
- クレジットカード/ペイジーなどでオンライン決済
- 印紙の貼付・補正・返還といった作業がなくなる
算出方法はそのまま、納付方法だけがデジタル化。
これが正確な理解です。
現行制度とデジタル化後の違い(比較表)
| 項目 | 現行制度 | デジタル化後 |
|---|---|---|
| 郵券 | 申立側が計算し切手を事前提出 | 原則不要。必要時は裁判所が算出し電子納付 |
| 送達方法 | 郵便による特別送達が中心 | 電子送達が原則 |
| 印紙(手数料)納付方法 | 紙に収入印紙を貼る | 電子納付(mints が自動計算) |
| 手数料算出方式 | 訴額に応じて変動 | 変わらない(現行方式を継続) |
| 原告への送達費用 | 裁判所負担 | 変更なし |
| 事務負担 | 郵券計算・貼付など多い | 大幅に軽減 |
デジタル化によって申立費用はどう変わるのか
まとめると、デジタル化のインパクトはこうなります。
✔ 郵券の提出は廃止(0円〜必要時だけ電子納付)
✔ 印紙は電子納付へ移行
✔ 手数料(印紙額)の算出方式は従来どおり
✔ 裁判所が実費を算出するためミスが減る
✔ 紙を買う・切手を用意する・貼るといった手作業が消滅
✔ mints 内の管理で手続が一元化
「必要な費用の計算」と「納付手段」が裁判所・システム側へ集約されることで、
申立人の負担は従来より大きく軽減されます。
まとめ
民事裁判手続のデジタル化(mints 導入)により、申立費用の扱いは次のように変わります。
- 郵券 → 原則不要に
- 郵送が必要な場合のみ → 裁判所が算出し電子納付
- 印紙 → 電子納付に統一
- 手数料の算出方式(訴額による階段表) → 従来どおり維持
費用の算出ルールはこれまでと同じですが、
納付方法と運用がデジタル化され、手間が劇的に減る のが最大の特徴です。
システムとの連携が不可欠な部分なので、mintsの機能公開との関連も含めて今後も見守っていきます。


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