はじめに
民事裁判手続のデジタル化(mints 導入)により、書面提出のオンライン化だけでなく、裁判実務の要である 「送達」 にも大きな変化が生じます。
送達は、訴状や裁判所の判断を当事者に正式に伝えるための手続であり、
- 手続開始
- 反論期限
- 控訴期間
など、法律上の重要な期限が動き始める基点となるものです。
この記事では、現行制度とデジタル化後の送達方法を比較しながら、郵券制度との関係や、公示送達が郵券の計算に影響しない理由など、実務の核心部分をわかりやすく整理します。
現行制度の送達方法(郵便中心・紙中心)
現行の民事訴訟では、送達の中心は「郵便」、特に 特別送達 です。
裁判所は申立人から預かった郵券(切手)を使って郵便局を通じて書類を送り、送達を完了させます。
特別送達(もっとも一般的)
- 郵便局による手渡し配達(受領印が必要)
- 訴状、判決書、期日呼出状など主要書類に利用
- 不在時は再配達
- 郵便事故や返戻の発生可能性がある
書留郵便・本人限定郵便
- 特別送達が適さない場合の代替手段
- 選択権は裁判所にあり、申立人が指定するものではない
付郵便送達
- 郵便受け等への投函で送達とみなす
- 裁判所が判断して行う手法
公示送達
- 住所・居所が不明な場合の最終手段
- 裁判所掲示板に掲示
- 掲示開始から2週間経過で送達成立(民訴法110条)
- 郵便を使用しないため郵券不要
送達方法は誰が決めるのか?
結論
送達方法を決めるのは裁判所(書記官)である。
申立人が
- 特別送達
- 書留
- 公示
などと指定する制度は存在しない。
申立人が行うのは、
- 郵券(切手)の提出
- 宛先情報の提供
のみであり、送達手段の選択は裁判所が行う。
郵券と送達方法の関係
現行制度の郵券は「送達に必要な郵便料金」を申立人が前払いする制度だが、
送達方法の選択権は裁判所にあるため、構造的にやや特殊な運用になっている。
しかし、この制度には理由がある。
送達費用は国費予算がなく、申立人前払い方式となっている
- 裁判所は送達方法を決定
- 郵便料金だけ申立人が負担
というハイブリッド構造が現在の郵券制度。
郵券の金額は送達方法によって変わるのか?
結論
→ 送達方法が何であっても、実務では郵券の金額は同じ扱いで運用される。
理由1:郵便局の料金構造がほぼ同額
特別送達・書留郵便・本人限定郵便・付郵便送達などは、
郵便局に支払う実費が いずれも800〜1000円程度 に収まる。
差額はあっても数十〜百円単位で、送達方式ごとに切手額を変える実務的意味がない。
理由2:送達方法は申立後に裁判所が判断
申立時点で送達方法は確定していない。
そのため方式別の金額差を考慮した郵券提出は不可能であり、
「どの方式でも賄える金額」を裁判所が定額で求める運用になっている。
理由3:実務は「1通あたり××円」の定額モデル
多くの裁判所では:
- 1通あたり約1000円
- 多めの裁判所は1200円程度
という定額制を採用している。
公示送達と郵券が無関係な理由
公示送達は郵便を使わない
→ 郵券不要
→ 郵券計算書に出てこない
公示送達は申立段階でほぼ確定しない
通常送達 → 付郵便 → 居所調査 → それでも不能 → 公示送達
という“段階的判断”であり、申立人が最初から予測して郵券計算に含める性質ではない。
公示送達となった場合、余った郵券は後で返還
そのため申立時の郵券計算には公示送達を考慮する必要がない。
デジタル化後(改正民訴法後)の送達方法
電子送達(mints)【原則】
- 書類が mints に届く
- 当事者が閲覧した時点で送達完了
- 閲覧しなくても一定期間経過で送達みなし
- 郵券不要
- 再配達なし・郵便事故なし
mintsからの通知(補助)
- 文書が届いたことをメールで知らせる
- 送達とは別だが利便性向上
郵送送達(例外)
電子送達が利用できない場合に限り残る。
ただしこの場合も:
- 郵券の事前提出は廃止
- 裁判所が必要実費を算出
- 申立人が電子納付する後払い方式へ
公示送達は存続(仕組みは現行と同じ)
- 掲示による送達
- 2週間経過で送達成立
- 郵券不要
現行制度とデジタル化後の比較
| 項目 | 現行制度 | デジタル化後 |
|---|---|---|
| 送達の中心 | 特別送達(郵便) | 電子送達(mints) |
| 郵券 | 原告が事前に提出 | 不要(必要時電子納付) |
| 送達方法の決定権 | 裁判所 | 裁判所(変更なし) |
| 公示送達 | 裁判所掲示(2週間) | 継続 |
| 郵便事故 | 発生しうる | ほぼゼロ |
| 再配達 | 不在では必要 | 不要 |
| 即時性 | 郵便事情に依存 | 閲覧時点で即送達完了 |
まとめ
民事裁判手続のデジタル化は、送達の運用に大きな変革をもたらします。
- 郵送中心 → 電子送達が原則に
- 郵券の事前提出は廃止
- 郵送が必要な場合は裁判所が実費算出 → 申立側は電子納付
- 送達方法はこれまで通り裁判所が決定
- 送達方法が違っても郵券額は変わらない(定額制)
- 公示送達は郵券不要で計算対象外
- 郵便事故や不在対応がなくなり、効率と確実性が大幅に向上
デジタル化後は、送達のあり方がより合理的・効率的になり、当事者にとって大きな負担軽減が期待されます。
費用についてと同様に送達についてもmintsとの兼ね合いになるので今後のmintsの機能リリースについて注視していきます。


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