はじめに
前回の記事では、民事裁判書類電子提出システム「mints(ミンツ)」の概要と導入スケジュールを紹介しました。
今回は、より実務に近い視点から mints によって変わること・変わらないこと を整理します。
mints の導入により民事裁判は大きくオンライン化しますが、すべてが一気にデジタル化されるわけではありません。
当初は「電子と紙が併存する移行期間」が長く続く点を理解しておくことが大切です。
mints によって変わること
書面の提出がオンラインで完結する
最大の変化は、これまで紙で提出していた書面を オンラインで提出できるようになる ことです。
- 裁判所に行かずに済む
- 郵送が不要
- 印刷・綴じ作業が大幅減
- PDF で統一した提出が可能
基本は PDF 提出 ですが、証拠の元データとして Word・Excel のファイル提出が認められるケースもあります。
準備書面の提出作業は大きく軽減されます。
郵券・印紙(手数料)の提出がオンラインに移行していく
従来の紙提出では、訴状提出時に以下が必要でした:
- 収入印紙を貼る(手数料)
- 郵券(郵便切手)を事前に用意する
mints の導入により、これらは 電子納付へ段階的に移行 します。
- 手数料(印紙) → 電子納付(Pay-easy等)
- 郵券 → mints が自動計算、オンライン決済へ移行予定
これまで提出者が自分で計算・購入していた
印紙額・郵券額の算出作業は mints 側で管理される方向 です。
これは、実務的に極めて大きい変化です:
- 印紙・郵券の“買い忘れ”がなくなる
- 郵券の種類(84円・94円・260円…)を揃える手間が消える
- 郵便局へ買いに行く必要がなくなる
- 計算ミスによる補正が減る
- 封筒準備・貼付の作業がなくなる
結果として 費用・事務コストの両方が確実に減る と考えられます。
裁判所への提出受付が時間に左右されにくくなる
mints は原則 24時間提出可能(メンテを除く)。
提出時刻はシステムログに残り、
「提出した/していない」の証明が明確になります。
これにより、持参・郵送の締切時刻に追われる負担が軽減されます。
電子送達が利用されるようになる
裁判所から送られる書面が電子的に到達する仕組みです。
- メールで「新着あり」を通知
- mints 内で書面を閲覧
- 開封しなくても一定期間経過で送達扱い
- 期限計算がログ基準で統一
紙の特別送達並みの効力を持つため、見落としが重大リスクになる 点に注意が必要です。
紙作業が全体的に減る
mints を利用することで、以下の作業が減ります:
- 印刷・ホチキス留め
- 郵送準備(封筒・切手)
- 紙ファイルの保管
- 裁判所への持参
事務所の手間と費用が大きく軽減します。
裁判所側の事務処理が早くなる
紙の収受・仕分け・保管の負担が減るため、
裁判所の書面受付もスムーズになります。
mints は 将来の電子記録・電子閲覧 の基盤にもなります。
mints によって変わらないこと
訴訟の基本ルールは変わらない
mints は“提出方法”が変わる仕組みであり、
民事訴訟法の基本ルールはそのままです。
- 主張・立証の構造
- 期日の進行
- 証拠提出の順序
- 判決までの流れ
これらが変わるわけではありません。
紙送達は当面残る
以下の場合、裁判所は紙で書面を送達します:
- 相手方が本人訴訟
- 弁護士でも mints を利用していない
- 電子送達の対象外の書面
- 裁判所の判断で紙送達が適切な場合
そのため、しばらくは 電子と紙のハイブリッド運用 が続きます。
書面の記載内容・形式は従来のまま
電子化しても、提出書類の中身は従来どおりです。
- 訴状の必要記載事項
- 準備書面の構成
- 証拠番号の付け方
- 事件番号の記載ルール
mints が自動で整えてくれるわけではありません。
訴状の電子提出は段階導入
訴状・反訴状などの主要書類は、2025年度中の導入が予定されていますが、
全国一律ですぐに電子化されるわけではありません。
裁判所ごと・事件類型ごとに段階的に広がっていく見込みです。
よって 紙提出は当面残る と考えるのが現実的です。
裁判所とのやり取りのすべてが電子化されるわけではない
- 電話連絡
- 事務的相談
- 一部の呼出
- 特殊な申請
など、mints が扱わない連絡手段も多く残ります。
mints 時代の実務上の注意点
メール通知だけに頼らないこと
mints の電子送達は、メール通知の見落としが 致命的なリスク になります。
事務所内で通知確認ルールを定めることが必須です。
未開封でも送達扱いになる点を理解する
- 深夜でも到達する
- 到達の瞬間から期限が動く
- 開封しなくても期限が進む
という電子特有のルールを把握しておく必要があります。
Word/Excel提出は“補助資料”として扱う
制度上の正本は PDF。
Word/Excel は補助的に提出できるだけなので、
PDF化の品質管理が重要 になります。
まとめ
mints の導入は、民事裁判のオンライン化を大きく前進させるものです。
変わること
- 書面提出のオンライン化
- 印紙・郵券の電子納付化
- 電子送達の導入
- 紙作業の削減
- 提出受付の迅速化
変わらないこと
- 訴訟ルールの根幹
- 書面内容の形式
- 紙送達の併存
- 訴状提出の段階導入
mints は、紙文化から脱却するための 長期的なインフラ整備の第一歩 です。
実務への影響は大きいものの、基本ルールは維持されつつ、
負担が着実に減っていく方向に進む制度と言えるでしょう。


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