.NET 6 から .NET 8 にかけて変わったこと|業務システムの現場に効く進化点まとめ

.net6から.net8にかけて変わったこと 技術

前回の記事でも書きましたが、2025年11月11日に.NET10がMicrosoftより正式にリリースされました。
今後は.NET10を基盤としたアプリケーションが検討、導入されていくのですが、こちらへの対応を考えるためにまず前回のLTS版の変更リリースの.NET6から.NET8にかけて何が変わったのかをまとめます。

はじめに

2021 年にリリースされた .NET 6(LTS) は、統合後の「事実上の基準バージョン」として多くの企業システムで採用されました。
その 2 年後、2023 年 11 月に .NET 8(LTS) が登場し、性能・安定性・運用性の面で大きく進化しています。

この記事では .NET 6 → .NET 8 の間で何が変わったか を、業務システム開発の視点から整理します。


サポート期間:.NET 6 はすでに終了、.NET 8 が現役 LTS

バージョンリリースサポート終了種類
.NET 62021/112024/11LTS
.NET 82023/112026/11LTS

新規開発や、これから数年運用を続けるシステムの場合は、LTS の .NET 8 を選ぶのが自然です。
サポートが終了した .NET 6 を新規採用する理由は基本的にありません。


ランタイム性能の向上(JIT・GC・BCL)

.NET 8 では、アプリケーションの土台となるランタイム部分が大幅に最適化されています。

JIT 最適化の強化

  • ループ処理の高速化
  • ベクトル化(SIMD)適用範囲の拡大
  • インライン化の改善

これにより、同じ C# コードであっても .NET 6 より .NET 8 のほうが高速に動作するケースが増えています。

GC(ガーベジコレクション)の改善

  • 停止時間(Stop-the-world)の短縮
  • 短命オブジェクトの回収効率向上
  • メモリ使用量の安定化

大量アクセスをさばく Web API では、レスポンスの安定性やスループットの向上に直結するポイントです。

BCL(基本クラスライブラリ)の最適化

  • コレクション
  • LINQ
  • 文字列処理
  • JSON 処理(System.Text.Json)

といった、日常的に使う標準ライブラリの内部処理も改善されています。
これにより、業務ロジック部分をそのままにしても、ランタイム更新だけで負荷が下がる可能性があります。


ASP.NET Core の性能と運用性の強化

Web API や Web アプリの基盤となる ASP.NET Core も、.NET 8 で強化されています。

HTTP/2 / HTTP/3 の処理改善

HTTP/2 / HTTP/3 というプロトコルそのものが変わったわけではなく、
.NET 側(Kestrel や HTTP ライブラリ)の実装が改善されたという意味です。

  • 高負荷環境でのスループット向上
  • レイテンシの安定化
  • 複数リクエストの多重化処理の効率アップ

結果として、同じインフラ構成でもより多くのリクエストを捌きやすくなります。

JSON 処理(System.Text.Json)の高速化

  • Utf8JsonReader の最適化
  • シリアライズ/デシリアライズにおけるメモリアロケーション削減
  • Dictionary / List などの処理改善

Web API はリクエスト/レスポンスともに JSON を扱うことが多いため、
System.Text.Json の改善はそのまま API の処理性能向上につながります。


OpenTelemetry 対応と観測性の向上

.NET 8 では OpenTelemetry(Otel) のサポートが実質的に標準になりました。

OpenTelemetry とは

  • ログ
  • メトリクス(数値指標)
  • トレース(リクエストの流れ)

といった「アプリの動きを観測するための情報」を、共通の形式で収集・連携するための標準規格です。

.NET での具体的なメリット

  • ASP.NET Core が自動的にトレース情報を出力
  • HttpClient や EF Core などからも計測情報を取得しやすい
  • OpenTelemetry Collector を通じて、Grafana/Azure Monitor/他の監視サービスなどへ柔軟に連携可能

これにより、

  • 「どの API が遅いのか」
  • 「どこでボトルネックが発生しているのか」
  • 「外部サービスのレスポンス遅延が影響していないか」

といったことを 後付けではなく、標準機能ベースで分析しやすくなっています。


.NET Aspire の登場(クラウドネイティブ基盤)

.NET 8 の大きなトピックの一つが .NET Aspire です。

.NET Aspire とは

  • 複数のサービス(Web API、Worker、DB、Redis など)をまとめて定義・起動できる仕組み
  • 接続文字列や依存関係の設定を自動化
  • Aspire ダッシュボードから、ログ・メトリクス・トレースを一体的に確認可能

いわば、.NET 向けのクラウドネイティブアプリ用スターターパック/オーケストレーションツールのような位置づけです。

業務システム視点でのメリット

  • 開発者ごとのローカル環境構築が楽になる
  • マイクロサービスや複数コンポーネントを使った構成を試しやすい
  • 観測周り(ログ・メトリクス・トレース)が最初から整備される

.NET 6 の時代にはこのような“公式のクラウド向け土台”は存在しておらず、
.NET 8 から新たに得られる開発体験と言えます。


.NET MAUI の安定化(クロスプラットフォームアプリ)

.NET MAUI は、C# で iOS / Android / Windows / macOS 向けアプリをまとめて開発できるフレームワークです。

.NET 6 時点ではやや不安定さがありましたが、.NET 8 では次のような改善が入っています。

  • メモリリークの修正
  • 各種コントロールの動作安定
  • アプリ起動時間の改善
  • Windows / iOS / Android での品質向上

その結果、業務用のモバイルアプリやデスクトップアプリでも実用的に検討できるレベルになってきています。


C# 10 から C# 12 への進化(記述性と安全性の向上)

.NET 6 → .NET 8 の間で、言語としての C# も進化しています。

  • primary constructor によるシンプルなクラス定義
  • パターンマッチングの表現力向上
  • コレクション初期化構文の改善
  • 冗長なボイラープレートコードの削減

これにより、業務ドメインを素直に表現したコードを書きやすくなり、保守性も上がります。


業務システムで得られる実利の整理

.NET 6 から .NET 8 への進化は、業務システムに対して次のような具体的メリットをもたらします。

  • レスポンス速度向上
    • ランタイム最適化(JIT/GC)
    • JSON 処理の高速化
  • リソース効率の向上
    • 同じインフラでより多くのリクエストを処理可能
    • CPU 負荷の低減によりスケールアウト回数が減る可能性
  • 運用・監視の改善
    • OpenTelemetry によるトレース/メトリクス/ログの統合
    • 障害調査やボトルネック分析がしやすくなる
  • クラウドネイティブへの対応力向上
    • .NET Aspire によるクラウド前提の構成管理
    • 複数サービス構成を試しやすい開発環境
  • クライアントアプリの選択肢拡大
    • .NET MAUI の安定化により、C# ベースでスマホ/デスクトップアプリを用意しやすくなる

まとめ

.NET 8 は、.NET 6 の安定性と性能を土台に、

  • ランタイム性能
  • Web API 性能
  • 観測性(Observability)
  • クラウドネイティブ対応
  • クロスプラットフォーム UI
  • 言語機能

といった部分をバランス良く強化した LTS バージョンです。

…というのが.NET6から.NET8にかけてできるようになったことのまとめです。

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